二児と美容師と小説と私

そんなことより私の小説読んでください

もうひとりのわたし

 

私がはじめてつくったブログのタイトルは『頬のたるんだ犬と暮らす』だった。
今から10年以上前。20代の終わりで、夫がまだ同棲中の彼氏だった頃。

先日、大滝瓶太(まちゃひこ)さんという方のnoteを拝読して、心を動かされた。

note.mu

 ブログはこちら

 https://www.waka-macha.com/entry/2018/08/02/031358

 

わかる、わかると思いながら読んだ。そして寂しいような懐かしいような気持ちになって思い出したことがあったので、それを書こうと思う。

 

20代の終わり頃、私は首の故障で長く続けていた美容師を辞めた。
治療に通えば美容師を続けることも出来たが、美容師という仕事自体に嫌気がさしていたので違う仕事についた。
新しく始めた無線通信機器のサポートセンターでの仕事では、出勤日数や勤務時間をセーブしたので、美容師時代には得られなかった自由な時間が増えた。
仕事を終え、夕飯の下ごしらえをしても彼が帰るまでにたっぷり時間がある。
買いたてのパソコンでネットサーフィンしていたら、あるブログサイトにたどり着いた。
なぜブログを始めようと思ったのかは全く思い出せない。自分の心のうちをぶちまけられる場所が欲しかったのかもしれない。
何をテーマにブログを書くか考えたとき、人生で初めて飼ったいとおしい愛犬のこと以外に思いつかなかった。
すでに『楓双葉』という名前で小説を文学賞に何作か送っていたので、ブログネームは迷わず『ふたば』としてスタートさせた。もちろん本名ではない。
もうひとりのわたしがネット上で生まれた瞬間である。

『頬のたるんだ犬と暮らす』というタイトル通り、頬のたるんだまん丸おめめの可愛い愛犬のおかげで、閲覧者は日に日に増え、ランキング20位以内に入るようになった。
おそらく同年代か少し上の女性たちからコメントをもらい、お礼にみんなのブログをみて回った。いろんな人が饒舌に日々を語り発信することは今では当たり前になっているが、その当時の私にとってそれはとても刺激的な読み物として楽しめたのを覚えている。

将来おでん屋を営むのが夢のうさこさん、一人娘の育児を温かい文章で綴るSさん、B級映画の感想をパンチの効いた独特の表現で書くT男さん。
私にとってネットで初めてできた友達のような人たち。
愛犬の成長を一緒に喜び、美容師時代の失敗談を一緒に嘆き、幼少期の悲しい思い出に涙してくれる。
顔見知りの人たちよりも心のうちを赤裸々に語れる場所となったブログで、ある日「小説家になりたい」のだと私は告白した。
するといつもコメントをくれる人たちが「ネットで公開するといい」とアドバイスをくれた。
けして押し付けがましくなく、私を思ってのことだと伝わる言い方だった。
けれどその当時の私はあくまでも紙の小説家をめざしており、不特定多数の人が見るネットで小説を公開するなんて、大切な宝物を海に捨てるようなものだと思っていた。
「ネットで公開するのは抵抗がある」と素直にブログに書くと、みんなその気持ちを受け止めた上で私に言葉をくれた。
「ふたばさんの文章は体重が乗っているのできっと小説も面白いと思う」
「ふたばさんの小説を読めないのは残念だけど応援している」
「もし叶うなら読みたいけどふたばさんの気持ちもわかる」
そんな風に言われて嬉しかった。
そのあと私はFC2小説というサイトに出会い、ブログの人たちには「ネットで公開しない」と言ったのにも関わらず、気が変わり小説を投稿した。
ブログで公開しなかったのは、仲良くなったみんなに「面白くない」と思われるのが怖かったのだ。
FC2小説では、投稿した小説にコメントがついた。星をいくつもつけた素敵なレビューをもらい、私は完全に浮かれて、FC2小説というサイトにどっぷりはまってしまった。(FC2小説での出来事は長くなるのでまた今度)
そして私はそのブログをやめ、お別れを言うこともなく削除してしまった。小説サイトでの活動はしばらく続いたが、二人目の出産後、復職の準備で精神的な余裕がなくなりFC2小説はおろかネットからも4年ほど離れてしまう。

下の子のオムツがはずれ、子育てに一区切りついたところで私はネットでの活動を再開した。

 

今はTwitterとnoteをよく見ている。
FC2小説で出会った小説仲間の人たちについては、今ごろどうしているのかな…と思い出すことはしょっちゅうあるけど、『頬のたるんだ犬と暮らす』で知り合ったブログ仲間のことは今回、大滝瓶太(まちゃひこ)さんのブログを読んで久しぶりに思い出した。

 

『頬のたるんだ犬と暮らす』と検索しても、もうブログは出てこない。
そして頬のたるんだ愛犬も、二年前に亡くなってしまった。
もうひとりのわたしとしてネットに生まれた楓双葉という人物は、ダラダラとまたネットで小説を公開しはじめた。
いつか誰かが、「昔ネットで読んだ、楓双葉って人の小説をまた読みたい」とググってくれることを信じて、楓双葉という名前を使い続けようと思う。
noteやなんかでプロフィールに書いてる「私の小説がふと思い出されることがあれば本望」ってやつ。
カッコつけてるけどあれが私のモットー。
もしネット上ではぐれたら、いつか思い出してほしい。もうひとりのわたし、『楓双葉』が書いてる小説のこと。

 

 

 

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