二児と美容師と小説と私

そんなことより私の小説読んでください

シャンプーされる時のあなたは処女であるべきだ

あなたの目の前にスイカがある。重さは5㎏。泥がびっしりとこびりついている。拭いたり水を流しかけたりするだけで取れるような汚れではない。

 

目の前にシャワーがある。蛇口から伸びたホースの先についているシャワーヘッドは固定する壁がないので床で転がっている。

あなたは仕方なくシャワーを左手で持つ。何故ならそのスイカを洗うのが仕事だからである。シャワーでお湯をスイカにかけてみる。泥はぎっしりとこびりついている。スポンジやタワシのような道具もないので素手でこするしかない。
左手のシャワーで水をかけ右手の指の腹を使ってあなたはスイカをこする。
いいぞいいぞ、汚れが取れてきた。

その時である。

スイカが動き始める。あなたが洗おうと思っているのとは違う面をこちらへ見せてくる。こっちを洗おうとしたらあっちを、あっちを洗おうとしたらこっちをという具合に向きが変わる。イラついたあなたはスイカの向きを直す。また動く。直す。するとスイカが浮き始める。浮いてくるくる回りだす。「私がこうした方が、あなた洗いやすいでしょう?」と言わんばかりに。

その時あなたは思うだろう。
「動くなよ!洗いにくいだろうがっ!」と。

 

気がつくと今度はあなたはベッドの上にいる。
あなたは男で相手の女は四つん這いで尻をこちらへ向けている。そう、あなたたちは今から後背位でナニをしようとしている。ナニをすることで女から報酬がもらえるからだ。
あなたの凸を女の凹に入れ、順調に出し入れしていたら突然女が動き出す。より快感を得るためにあなたのインに対してより深くイン!あなたのアウトに対して更なるアウト!を仕掛けてくる。
イン!アウト!イン!アウト!凹!凸!凹!凸!しかし繰り返していううちに二人のリズムは狂い出す。
インに対してアウト、アウトに対してイン、凹に凹!凸に凸!アン!アン!アアーン!じれったい!!!!

リズムが狂ってしまったことであなたの凸は凹からポロリと抜け、うっかり違う穴に入りそうになったりする。
そこであなたは思うだろう。
「俺が突くからお前はじっとしてろ!ヤリにくいんだ!」と。

 

……。

 

何の話をしているかというと、美容師がシャンプーの時によく思うことである。
あなたはシャンプーの時、スイカや女のように動かなくて良い。頭が重いから申し訳ない、洗いやすいよう協力したい、などと思わなくて良い。
動かない重い頭前提で美容師はシャンプー技術を習得する。客が勝手に動くのは想定外である。また別の技術が必要となるのだ。だからあなたは何も考えなくて良い。
洗ってほしいところが見えるように動くことで逆に洗いにくくなり、重い頭を軽くしてやろうと力を入れることで首からお湯が背中へ抜けて服が濡れてしまったりする。
そこで美容師はやりにくさのあまり言うだろう。「力を抜いててください」と。
これはまさに処女を喪失する瞬間に男が女にかけた言葉ランキング一位である(楓双葉調べ)。
まぁ私くらいのベテランになると、声かけなどせずに無言でグイっと直す。「余計なことをせんでよろし」という圧力をかける。テレパシーを送るとも言う。

 

美容室でのシャンプーは気持ちよくあるべきだ。
あらゆるしがらみから解放され、無防備に頭部を他人に預け、汚れを洗い落としてもらう。
より快感を得るために、シャンプーの時客は、処女であるべきなのだ。

 

あなたはいずれまた美容室へ行くだろう。
そして美容師にシャンプーされる。
シャンプー台がゆっくりと倒れ、顔にガーゼが乗せられる時、あなたは生まれて初めての口づけの時のようにそっと目を閉じれば良い。そして乾いた髪を美容師がビシャビシャに濡らし始めた時、怯える必要はない。あなたは処女のように大人しく横たわっていれば良い。マグロis Best. マグロis Beautiful.

 

 

 

 

 

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